「動揺せず生きよう」 (下)
詩編62編2-13節
ヨハネ5章19-30節
…ブレヤさんは10歳の時に信仰に目覚めたというのです。父親は40歳の若さで積極的な無神論者でした。ところがある日、重い脳卒中で倒れ、命も危うくなりました。少年ブレヤは直ぐに学校にやられたのです。すると先生は、ひざまずいて、彼と一緒に祈ってくれたそうです。
ただ、先生が祈ろうとした時、ブレヤ少年は、「ちょっと待って下さい。僕の父は無神論者です。祈っても仕方ありません」と言ったんです。でもすかさず先生は、「お父さんは今は信じていなくても、神の方がお父さんを信じてくださっている。お父さんにお返しの愛を命じたり、求めたりなさらずに愛して下さるんだ」と言って、一緒に祈ってくれたそうです。
嬉しかったでしょうね。信仰というのは神を信じることだと思っていますが、神が私たちを信じていてくださるって言うんです。素晴らしいです。ブレヤ君はその時、初めて、「沈黙して神に向かい」、神にあって「動揺しない」ことを学んだのではないでしょうか。
「神は、お返しを求めずに愛して下さる。」クラスの先生の言葉を紹介して、ブレヤさんはアメリカの首脳達に何を言おうとしたのか分かりません。想像ですが、私は、ブレヤさんは、世界は共に生きなければならない、運命共同体として、お返しを求めずに、助け合わなければならないと、この危急の時にあって語ろうとしたのでないかと思いました。
(5)
昨年暮れから、フランクリン・ルーズベルト大統領のことを数回紹介しました。彼は世界恐慌の4年後に大統領になって長く大統領をした人です。やがて日本と戦う大統領にもなった人で、日本との戦争が終る4ヶ月前に脳出血のため63歳で急死しました。
「神にのみ、私は希望を置いている」とありましたが、世界恐慌を乗り越えるために、彼が国民に与えたのは希望を持つことでした。米国では3分の1の人が失業したのです。それで具体的に底辺にある人たちに希望を与える政策を行ないました。
今、不況を理由に日本の企業は派遣社員や正社員の首をどんどん切っています。企業が生き残るためです。企業も苦しいですが、辞めさせられて、住む家も無くなった人たちは、どこにも行き場がなくて、大変なことになっています。
一番大きな問題は、政府がこれに真剣になって歯止めをかけていないし、かけようという気が感じられないことです。そこには、共に生きるという視点、泣く者と共に泣き、苦しむ者と共に苦しみ、共に苦労しようという真剣な態度は非常に弱いです。庶民の苦しみが分かっていません。
政府首脳が率先して自分たちの給料をダウンし、企業の経営陣や高額所得者の給料もグンと減らして、所得に制限を加えて、国民皆が共に生きる道を探さねばならないような事態にあるのではないでしょうか。
ルーズベルトはそれをやったのです。猛反対を受け、悪口を言われながらそれを遂行しました。それと共に仕事を作り出し、当時のお金で1日1ドルの仕事を無数に作り、また学校建設、橋の建設、病院の建設を行ないました。変わった所では、ユダヤ人の教師ラビ達にさえ、ベブライ語の辞書の編纂をさせる事によって仕事を与えています。
「暗闇を呪うのでなく、暗闇にろうそくを灯そうとした」とは、こういうことです。
彼が低所得者層に圧倒的な人気があったのは、資本家達に立ち向かったからですが、それと共に、40代後半で小児マヒになり、立ち上がることができなくなったことです。にも拘らず、万事休すという中で大統領選に出たのです。その勇気、その志に多くの人が励まされました。51歳で大統領になりました。
ある日、牧師が訪ねると、彼は、「机から床を這って、書棚まで行き、一冊の本を取り出し、口にくわえ、また床を這って机まで戻ったのです。」なぜ、そんなことをされるのですか。秘書に取ってもらえばいいでしょうと聞くと、いや、私はできることをしなければならないし、それを皆に示したいと語りました。
車椅子になってから大統領になり、果敢に資本家たちと戦って最底辺の人たちに立ち上がるチャンスを与えました。
人間ですから彼は様々な欠点も持っていました。しかし、現実に国民に希望を与えたのです。
彼は、「我々が恐れなければならならぬ唯一つの事は、恐れだ」と言っています。即ち、「努力が必要なのに、努力をできなくし、前進でなく後退させてしまう、恐怖心を恐れなければならない。」
蛇に睨まれて蛙はすくんでしまいます。困難な現実の前で、すくむことが最も恐ろしい誘惑です。イエスが、「平和を与える。私の平和を授ける」と語り、「心を騒がせるな。おびえるな」とおっしゃったのは、そのためです。
「沈黙して、ただ神に向かう。」その時、「決して動揺しない。」今日の詩編が語るのは、そういうことです。神に心を向けて恐れない。そして神に真に向かう故に、日常の必要な事柄に取り組み、責任をもって人々に希望を指し示していく。
(6)
誰しも、この不況が長く続かないようにと願っています。私もそれを願います。なぜ願うかというと、かつての世界恐慌が起って、それが引き金になって、やがてヒットラーが現れます。そして第二次世界大戦が起り、日本も真珠湾を攻撃して大戦に突入して行きました。
戦争が起らないように、ぜひとも賢明な政策が取られなければなりません。「動揺せず生きよう」。不況が更に深刻になっても、動揺せず、賢明な道が選ばれなければならないのです。
(完)
2009年2月8日
板橋大山教会 上垣 勝
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(今日の写真は、きのうの写真からタクシーで更にヴェズレーに近づきました。どんな町だろうと胸ときめかしながら。)