解放のよろこび (上)  ルカ13章10-17節


                                  (1)
  イエス様が、ある安息日に、シナゴグと呼ばれるユダヤ教の会堂で、神の国の福音について教えておられた時、そこに、誰かに連れられて来たのでしょう。18年間、腰が曲がってどうしても伸ばせず、立つことが出来ない女の人が来ていました。

  イエスは、その女性が長く苦しめられているのを憐れに思って、その人に手を置き、「婦人よ。病気は治った」と言われたところ、大変不思議なことに、腰が癒されてまっすぐになり、立ち上がることができるようになったというのです。

  これは、イエスはキリストであり、神の子、救い主であることを示す、一つの大きな徴となった出来事でした。キリストにおいて、神の国が地上に来ていることを示されたのです。

  群衆はこぞって、イエスの数々の行いを見て喜んだとありますが、特に当人は、キリストの恵みを心から感謝し、賛美したことでしょう。

  ところが、ユダヤ教の会堂長は、イエス安息日に病気を治したことに立腹して、集まっていた群衆に、「働くべき日は6日ある。その間に来て、治してもらうがよい。安息日に治してもらっちゃダメだ」と通告したのです。

  というのは、ユダヤ教の律法の規則は、安息日に働くことを厳禁していたからです。破った者に、死罪を言い渡されるほど厳しいものでした。彼らは、律法を重箱の隅をほじくるように微に入り細にわたる解釈をして、社会に適用しました。法律が人間のためでなく、人間が法律のためにあったのです。

  ところが、イエス様はこの女性をかばい、会堂長とその仲間に、例を引いて言われたのです。

  「偽善者たちよ。あなたたちは誰でも、安息日に牛やロバを飼い葉桶から解いて、水を飲ませに引いて行くではないか。」労働を厳禁しているものの、動物には餌をやり水を飲ませざるを得ないので、そういう労働は大目に見ている。

  この女性は動物でなく人間である。その上、アブラハムの子孫に当る娘であるのに、18年間もサタンに縛られていたのだ。そうであれば、牛やロバが安息日であっても水を飲ませるために解かれて引かれて行くように、彼女も、その長い人生の労苦と束縛から解き放たれてしかるべきではないか。

  イエス様は素晴らしい論理を展開されたのです。会堂長たちは厳格な規則で民衆の生活を律し、支配していました。しかしイエス様は、愛によって民衆と出会い励まされたのです。

                                  (2)
  「この女はアブラハムの娘なのに、18年もの間サタンに縛られていたのだ。安息日であっても、その束縛から解いてやるべきでなかったのか。」

  イエスの愛は、何と広く、大きく、正しく、熱いのでしょうか。イエス様は会堂長との議論において、この女性の持つ、他に比べる事のできない独自性を、無比な価値を明らかにされたのです。

  安息日は、神が6日間で天地万物を造り、7日目に休まれたという創世記1章に基づいて作られた日です。彼らは土曜日を安息日にしました。この日は、神の恵みを思い起こす日、神に感謝する日です。とすれば、たとえ腰が曲がってしまった人であっても、神の前でのその真の独自性を安息日に明らかにするのは、安息日にふさわしい事である筈です。

  イエスと共にある時、私たちは、会堂長が主張したように、安息日に「何をなすべきであり、何をなすべきでないか」という事でなく、「あなたは誰であり、誰でないか」、神の恵みの下で、「本当は何者である」と見られているのかということです。イエスは、神によってどう見られているかという、相対評価でなく神の絶対評価の次元で、私たちをご覧になるのです。

                                  (3)
  14節の会堂長の言葉は、出エジプト記20章の安息日規定に基づいたものですが、イエス申命記5章に基づいて答えられました。

  申命記は、「あなたはかつて、エジプトの国で奴隷であったが、あなたの神、主が力ある御手と御腕を伸ばしてあなたを導き出されたことを思い起こさねばならない。そのために、…主は安息日を守るように命じられたのである」と、語ります。

  安息日の由来は、先ほどの創世記と共に、もう一か所あります。それは、エジプトでの430年にわたる奴隷生活から解放されたことを思い起こす日でもありました。安息日が、解放の日を記憶する日だとすれば、今、長い年月、病気という苦痛によって、苛酷な肉体の牢獄に奴隷のように繋がれているこの人を、そこから解放することは、まさに安息日の趣旨に合致したものです。彼女が解放されることによって、今も神は、全ての人間の解放の神であることを示す、生きた徴になります。

  イエスは、1200年前に起こった出エジプトの事件の真の意味を、ここに明らかにされたのです。  (つづく)

    2008年2月17日
                                   板橋大山教会  上垣 勝

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  (今日の写真は、シャルトルの高級レストラン。)