静かな心に宿る力 (下)  イザヤ30章15-19節


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 イザヤはこのところで、「静かにしているならば救われる。安らかに信頼していることにこそ力がある」と語っていますが、これは消極的に何もせずにいることでなく、神に導かれて道のない所をも、神を安らかに信頼して静かな心を持って前進すること、あれこれと出来事を自分の都合のいいように操らないで、人間を越えた方を考えに入れながら、逃げずに進むことです。

 牙をむく強大なアッシリア帝国の下では、ユダヤは弱く、ちっぽけな、脆い国に過ぎません。その中で「安らかに主を信頼する」とは、自らの脆さを引き受けることであるでしょう。その弱さも、脆さも、障害と見なさないことです。

 むしろ、神の前に弱さを持ち出し、脆さを抱えつつ、神に救いを見出して静かに信頼していくなら、それが問題を解決する道になるだけでなく、新しい世界を切り拓くことになるのです。

 いま、人間関係の難しさの中におられる方もあるでしょう。赦しは戦略ではありません。見せ掛けではありません。また見返りを期待するのでもありません。単純に、イエスに従うことです。安らかに神に信頼することから生まれるものです。

 今日の題は「静かな心に宿る力」としましたが、騒がしい心には力は宿りません。心の騒々しさは力をそぐだけです。また、騒ぐだけでは多くの問題は解決しないでしょう。むしろ深く静かに潜行し、担う力を溜め込まねばなりません。そのようにして新しい世界を切り拓くことが出来ます。

 先日、妻が、教育相談をしている学童保育の施設で働いている青年が、教会に立ち寄りました。彼は、休暇を利用して東京の郊外にある祈祷院で過ごして来たと言っていました。どういう事をして過ごしたかを聞きましたら、聖書を読み黙想し、また聖書を読み黙想しというふうに、静かな祈祷院で聖書と黙想三昧をして、一泊して過ごしたと言うことでした。若いのに珍しい方です。

 彼は現実社会から逃げているのではありません。自分の心に揺れるものがある。仕事をする中で落ち込んだり、気負ってしまったり、そういう自分を乗り越えたいと言うことでした。

 年に数回そこへ行くそうです。この若者も自分の弱さや脆さを自覚して、「静かにしているならば救われる。安らかに信頼していることにこそ力がある」ということを信じて聖書に向かっていると思いました。

 私たちの弱さ、脆さを認めることは、正義の神に働いていただこうとすることです。神に、私たちの祈りや叫びを聞いて、応えて頂こうとすることです。32章には、「正義が造り出すものは平和であり、正義が生み出すものは、とこしえに安らかな信頼である」とあります。

 神の前に持ち出された私たちの弱さ、脆さは、私たちを受身にするのでなく、どんな準備もどんな計算もなしに、正義の神への信頼を与えられて大胆に前進させるものです。

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 今はどこに行っても高度な科学技術社会です。そして、高度な技術を持つと、将来の予見も可能であるかのような錯覚が生まれます。

 そういう時代がどう関係するのか知りませんが、今は出来るだけリスクを避け、危険を冒さなくなって来ています。社会が安全志向で、萎縮傾向にあります。

 しかしこれまでお話しましたように、聖書は、「安らかに信頼していることにこそ力がある。」真の力は、神にゆだねる大胆さの中にあると語るのです。

 この力は、神に根ざす力ですから、深い所からの落ち着きを与え、心に静まりを与えます。しかもそこに留まるのでなく、それは愛となって現われ、思いやりとなって外に出ます。静かに主を信頼して行く時に生まれる力は、他者と共に生きる力となり、壊す力でなく、生み育て建設していく力となります。

 現代社会に必要なことは、安全志向に陥りがちな中で、弱さや脆さを持ちながらも、それを神に委ねて大胆に冒険して行く逞しさです。

 それが、預言者イザヤがイスラエルの人々に語ったことです。

 安全を求める余り、危険と思うと人々は馬に乗って逃げるかも知れません。身勝手に、少しでも速い馬に乗って逃げるかも知れません。しかし、主を信頼して安らかに物事に打ち込み、静かな心を持って物事に対する。すると、そこから創造的な力が出てくるのです。また、新しい芽がそこから吹き出します。

 「安らかに信頼していることにこそ力がある。」ここに私たちを憩わせる泉があると共に、「冒険の道を歩み出すに必要な活力があふれている」のです。30章の少し前には、「信じる者は慌てることはない」、「どこまでも主に信頼せよ。主こそはとこしえの岩」とあります。  (完)

 2008年1月20日
                                   板橋大山教会  上垣 勝

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  (今日の写真は、ヴェズレーの高台からの農村風景)