宗教において罪は極まる


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                                                    ダビデの子について (2)
                                                    ルカ20章41-44節




                              (1)
  イエスは彼らに言われた。「どうして人々は、『メシアはダビデの子だ』と言うのか。」

  「彼ら」とは、今申しました律法学者やファリサイ人などです。彼らはやがて将来に来たるメシアを待っていましたが、それはダビデ王の子孫であり、ユダヤをローマの支配から解放してくれる政治的・この世的メシアだと考えていたのです。そうすると、やがて来るメシアは、ダビデの子孫ですからダビデに従属する者となります。メシアはユダヤの律法に従う者という事になります。

  見方を変えれば、やがて来られるメシアを、ダビデの子孫だとすることで、ユダヤの宗教者や指導者は、己(おのれ)の権威を不動のものにできたのです。言わばメシアを己の都合のいい者に飼い馴らし、無毒化したと言っていいでしょう。メシア・キリストによって信仰も宗教も砕かれ、新しくされて仕えるのでなく、メシアを無毒化し、手なずけた。

  これが、彼らが、「メシアはダビデの子だ」と言っていた理由です。もう一度言えば、彼らはメシアによって革新されるのでなく、メシアをダビデの権威の下に置いて、自分たちの権威を盤石のものにしようとしたのです。

  人間の罪は深いです。ある意味で、聖書は宗教において罪が極まると考えているのでないかと思います。その指摘を、こともあろうにユダヤ教の総本山とも言えるエルサレム神殿の境内で語られた。改めてイエスの凄さに驚きます。

                              (2)
  イエスは律法学者やファリサイ人の権威を相対化されるのです。彼らのメシア像を覆すことによって、彼らの権威を、また神殿の権威を相対化されるのです。

  どう覆されるのか。それが42節以下で引用される、ダビデ自身の詩編とある言葉です。「主は、わたしの主にお告げになった。『わたしの右の座に着きなさい。わたしがあなたの敵を、あなたの足台とするときまで。』」これは詩編110篇1節の引用です。

  最初の「主」は神を指します。次の「私の主」とあるのはメシア、救い主、キリストのことだと言ってもいいでしょう。神は、私の主、即ちメシアであり、救い主、キリストにお告げになったと、ダビデは語っていると言う事です。即ち、あなた方の先祖ダビデ自身が、メシアを私の主と呼んでいる訳で、メシアはダビデの子孫である筈がないと言うことです。

  むろん肉によればイエスダビデの子孫だと言われます。肉によればとは、血統によればと言う意味もありますが、それより、この世的にはと言う意味です。しかし霊によれば、死者の中からの復活によって、神の子、キリストとされたとパウロは語っています。(ローマ1章)。

  今申し上げようとしているのは、本来のダビデ自身は、謙遜であって、やがて来るメシアは自分の子孫であるとか、末裔(まつえい)であるとか、あるいはまた自分がメシアの先祖であるとか、先輩であるとか、そんな高慢な事はちっとも言っていない訳です。ダビデはメシアに対して実に謙遜であり、ありのままの人間として立っている訳です。

  イエスはこの事実を語って、「このようにダビデがメシアを主と呼んでいるのに、どうしてメシアがダビデの子なのか」と、彼らを一撃のもとに砕かれたのです。

  ルカは、この後の彼らの反応を記していませんが、マタイは、「これにはだれ一人、ひと言も言い返すことができず、その日からは、もはやあえて質問する者はなかった」と書き記しています。イエス様の言葉は彼らに衝撃を与えたに違いありません。

       (つづく)

                                            2015年9月27日



                                             板橋大山教会 上垣 勝



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