神など不要


                     チューリッヒ国立博物館で。修道院長への誓約。
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                                      あなたは大晩餐会に招かれている (中)
                                      ルカ14章15-24節


                              (1)
  さて、イエスが語られた譬えでは、晩餐会に予め大勢の人が招かれていたのです。その日、時刻になったので、僕を送って招待客たちに、「もう用意ができましたからお越し下さい」と言わせたのです。だがある人は、「畑を買ったので、見に行かねばなりません。どうか、失礼させてください」と言ったり、他の人は、「牛を二頭ずつ五組買ったので、それを調べに行くところです。どうか、失礼させてください」と言ったり、別の人は、「妻を迎えたばかりなので、行くことができません」と言って、次々断ったというのです。

  これは非常におかしい話です。普通ならこんな盛大な宴会に招かれたら、喜んでいそいそ出かける筈ですし、そっと出かけるのでなく、私は何々様からご招待を受けましたと人に吹聴して出かける筈でしょう。手土産さえ持って出かけてもおかしくないでしょう。

  ところがこの神の国の譬えでは、「申し訳ない」と言って皆、断ったというのです。何度も言いますが、普通はこんな事はありえません。色んな理由をつけていますが、もし断るのなら呼びに来る前に断るべきです。たとえそうしても、「申し訳ありません」という言葉が必要でしょう。

  という事は、招待客は招待者を馬鹿にしているわけです。「どうか、失礼させてください」と慇懃に言っているものの、相手を全く見くびっています。これはどうしてでしょう。イエスはどうしてこんな、現実にはありえないことをたとえでお話になったのでしょう。

  それは、地上では神の国のことなど少しも心にかけられていないとおっしゃりたいのでしょう。神様からの招待を断ったって痛くも痒くもないと考えている。それが人間の普通の社会である。特にこれは、この場に集まっているファリサイ人や律法学者に語られている訳で、彼らは神から招かれている人間なのに、上辺は大事にしていますが、神との真実な心からの交わりを欠いているからです。

  日本がキリスト教国でないから聖書に関心が薄いとか、神の国や天国のことを考えないというのではないのです。確かにそういう面もありますが、最近はキリスト教ブームですから、関心は強いのです。強いのですが知的興味に留まっている。クラシック音楽会に行ったり、西洋美術の展覧会が盛んですし、欧米旅行に出かける人が膨大ですから、少しはキリスト教を知っておかなっくちゃあ時代遅れになるって訳です。だがイエス時代に、イエスの周辺でも、多くの人は神の国の事など少しも実生活では心にかけずに暮らしていたという事でしょう。

  伝道は日本では難しいというのでなく、いずれの時代でも難しいし、耳を傾ける人は少ない。だがそうした困難な状況の中でも福音が語られて来たし、私たちは福音を語らなければならないという事もこれは意味しているでしょう。福音は生活の中で聞かれてはじめて受肉していきます。

  断った人たちが理由にした用事をもう少し考えてみますと、畑を買った人も、牛を買った人も、いずれも意志さえあれば、明日、明後日(あさって)に用事を回すことができます。また、妻を娶ったという人も、現実の大晩餐会の招待を受けたなら、若妻に誇らかに招待のことを話したでしょうし、若妻に見送られていそいそ出かけたことでしょう。

  では、イエスはこの譬えで何を語ろうとしておられるのでしょう。彼らは自分の力で生きていると思っているのです。彼らはすっかり満ち足りているのでしょう。神を必要としていない。不要なのです。神を侮っているのです。彼らは自分の主であろうとし、善悪をわきまえている者であるとするのです。自分自身の助け手であろうとする人間です。それで十分なのです。神のことを心にかける必要などないのです。

  ここに人間の罪の姿があります。このような中で神の恵みのご支配に反抗し、取り返しのつかない徹底的な、全面的な仕方で神に対して背き、罪を犯すのです。彼らは神を寄せ付けず、自分だけで満ち足りているが、そこに彼らの的外れな生き方が現れます。


        (つづく)

                                       2013年11月17日


                                       板橋大山教会 上垣 勝



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