自分を棚に上げて、人の目のチリを問題にする


                           リヨン博物館にて
                               ・



                                            あなたの隣人とは (下)
                                            ルカ10章25-37節

                                         ・説教などで引用される方は「コメント」を
                                          お残しください。


  (前回からの続き)                  
                              (2)
  「では私の隣人とは誰ですか。」ここに彼の人生の最大の課題があったに違いありません。律法学者、専門家でありながら、この一番重要な問いを避けつつ来ましたし、今も避けようとしている。「正当化するために、『では私の隣人とは誰ですか』」と聞き返すのは、誤魔化すためです。

  これはただ律法学者だけでなく、万人が問われている問いです。私たちも問われています。正解は頭で分かり、口で語り、人に勧めたりもしますが、実際にそれをしているかという問いです。イエスはそれを専門家に突き付けられたのです。

  私は、この突き付けは正しい事であったと思います。私たちが、イエスからこの突き付けを受けるのは正しいことだと思います。あなたは正しいことを言っているが、「では、それをあなた自身の家族の中で、隣人の中で、社会の中で実行しているか。それを実行しなさい。」こう問われて、反省して隣人を愛することへと向かうならそれは意味あることでしょう。また自分の姿を顧みるだけでも意味があると思います。

  しかし、私たちはしばしば逆のことをしてしまいがちです。それは、私たちがイエス様の場所に立って、「あなたは、この専門家のように言葉だけの人間でないか。あなたは口だけだ。何もしていないではないか。あなたは律法学者と同類項だ」と責めるわけです。イエスの問いを自分に向けるのでなく、人に向けるのです。聖書を読んでいると、人の顔がちらつきません? この言葉をAに言ってやろう。あの言葉はBに聞かしてやれ、なんて思っていませんか。だが、イエスに問われているのは自分なのです。問題は自分です。

  実は僅かの隣人愛をテコに人をやっつけたり、威張るような態度を取ったりしているかも知れないが、本当は自分もたいしたことをしている訳でないかも知れない。いや普段はお粗末なことをしている人間かも知れない。自己嫌悪が強い人ほど他罰的になり易いものです。自分をゆるせないから人もゆるせない。それが普通の人の心の動きです。

  この間、NHKでパスカルの「パンセ」をもとに「自己愛」について放送していました。自己愛はどんな人にもあるということで、プラスの自己愛と、マイナスの自己愛があると言っていました。プラスの自己愛は自分を自慢します。しかしマイナスの自己愛は、「私など褒められるに値するような人ではありません」と謙遜することで、謙遜を褒められようとしているというのです。控え目な人は、控え目を褒められようとしている。これはマイナスのほめられたい願望、自己愛だといっていました。虚栄心は人の心の奥深く碇を下ろしているわけでしょう。

  まとめて言うなら、自分の目にある梁を認めず、人の目にある塵を問題にして批判する。そこに上に立とうとする高慢の罪があります。しかし、今申しましたように、自分自身、では本当の意味で隣人愛に生きているかというと、実はそうでなくて、人よりもちょっと多く関わっていたりするだけに過ぎないかも知れない。真実な隣人愛からすればいたって怠惰な隣人愛かも知れない。にもかかわらず自分の怠慢を棚に上げて高慢にも人を裁こうとする。そこに罪があります。その隣人愛には偽善の影すらあります。

  話しは脇に逸れましたが、この律法の専門家の問題は、そういう色んな私たちの側面を照らし出します。

  彼は、「では、私の隣人とは誰ですか」とイエスに喰ってかかったのです。彼は追い詰められて、窮鼠猫をかむように、イエスに向かって行きました。

  イエスは次に何と答えられるのでしょう。イエスは律法の専門家を懲らしめようとされたでしょうか。自分を試そうとして立ち上がった彼に勝とうとされたでしょうか。それではいよいよ「善きサマリア人」の問題ですが、最初にお断りしましたように今日はこれで終わります。来週を楽しみにして下さい。私はこれまでよく説かれて来たのとは違った視点で、来週、善きサマリア人の譬えを取り上げたいと思っています。

       (完)


                                        2012年6月17日




                                        板橋大山教会   上垣 勝



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