勇気ある女医さん


 リフォーム(7) アンカーボルトはコンクリートに打ち込まれ、コンクリートの中で頭が膨らむので決して抜けなくなります。


                                              狂人の救い (上)
                                              マルコ5章1-20節


                              (1)
  墓場を住み家としていたゲラサの狂人には、レギオンという悪霊が住み付いていたと言います。

  今日は先週の続きですが、そこでお話しましたようにレギオンというのは、6000人の兵を擁するローマの正規軍です。悪霊が、自分たちは「レギオンだ。大勢だから」と言ったというのですが、6000とか、おびただしい数の正規の汚れた悪霊どもが男に取りつき、圧倒的な力で男をねじ伏せ占領していたという事でしょう。

  そういう悪霊というのがいるのかどうか分かりませんが、客観的とも言える力で外からねじ伏せられていたということでしょう。

  そのため彼は汚れた墓場を住み家とするようになり、昼も夜も叫びまわり、自虐的に体を石で傷つけたり、何かがあると加虐的に人を襲ったりして暴れていたということです。鎖で縛り、足枷をはめても獰猛な力でそれを引きちぎったり砕いたりして、誰も彼を取り押さえることができなかったのです。

  シェークスピアの「リア王」の中に、「本性がバラバラに崩壊してしまった人間」のことが出てきますが、彼の魂はバラバラに崩壊し、分裂し、収集がつかない状態になってしまっていたということでしょう。悪霊によって牛耳られて、何が自分か、何が悪霊かも見分けがつかなくなり、何が善いことで、何が悪いことかの見境もつかなくなるほど支配されていたと言ってもいいでしょう。

  イエスはそういう男を嵐のガリラヤ湖を渡って救いに来られたのです。

  イギリス中部の豊かな田舎町に高さ15mの高い塀に囲まれた250人を収容する病院があります。その病院は異常な凶悪な犯罪を犯した男たちが収容しています。

  そこにアズヘッドという精神科医の女医さんが、男性の医者たちに混じって勤めておられます。最近この方が、日本ではまだ翻訳が出ていませんが「悪の本性」という本を出されました。

  日々凶悪犯と接して、彼らができるだけ危害を加えなくなるように、より安全な人間になるようにと手当てをしているのだそうで、自分が犯した犯罪がどういうことを意味するのか、よく理解できるように治療しているのだそうです。というのは、異常な個性を持っている彼らは中々治療が出来ないそうで、たとえ完全な治療ができないにしても、自分が何者かを知って自己反省できる人間に導くのが仕事の中心のようです。自己反省という作業は人間の成長にとって大切なんですね。というのは、「暴力は真っすぐ正直に考えない時に現われ易い」と言っておられます。即ち、曲がって考えてしまう所に犯罪を犯す根本的な原因があるのだそうです。

  レギオンに取りつかれた男も真っすぐ考えず、歪んだ考え方をしていた。それが汚れた霊という事でしょうが、抗し難い汚れた力に圧倒されて、何もかも歪曲して考えていく。そこに原因があったのかも知れません。

  アズヘッドさんは、人の心はどういうメカニズムを持っているかに関心をもってここで働き始めたのだそうですが、心の歪みやねじれがどういうものかを知りたければこの病院に勤めると大変よく分かると語っておられます。

  この方は、患者たちを「私たちの人々」と呼んでおられます。私は、先週と今週と「ゲラサの狂人」とか「狂人の救い」という題にしましたが、狂人とか悪人とか決して呼ばれないそうです。むしろ不幸な「悲しい人たち」、不運な「哀れな人たち」というような呼び方をしておられるようです。

  この方から示唆されて、私は、ゲラサの狂人はそういう不幸な悲しい人の一人、不運な哀れな人の一人だったかも知れないと思いました。

  確かに彼も無心にはしゃぎまわる子ども時代を過したでしょう。大人たちから目を細めて見守られた頃もあったでしょう。ところがこういうことになってしまい、何て悲しいことか。

  アズヘッドさんは50歳の方ですが、2人の息子達を育てる中でそう思うようになったそうです。

  イエスがこの男をご覧になる目は実に温かいものがあります。レギオンにはきつい言葉を浴びせていますが、彼自身には責めたり、決めつけたり、裁いたりしておられません。むしろ嵐の湖を渡って行かれるほど彼の身になって心配しておられます。この女医さんは、世間から物騒がられ危険視され邪悪な怪物と見なされる人たちにも大変心優しく、慈悲深いドクターのようです。相手の立場、相手の身になって最善を尽くして考える方です。ご自分は内省的な人間だとおっしゃりながら、法から外れたアウトローの人たちに最善を尽くしておられる勇気ある女医さんがこの世界にいることを知って嬉しくなります。日本ではありませんが、こういう方がいるのは本当に励まされます。

              (つづく)

                                        2010年11月14日


                                       板橋大山教会   上垣 勝

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