突きぬけた喜び (上)


  
  
  
  
                                                                                            マタイ6章1-4節


                                 (1)
  今日の所に、「偽善者」という言葉が出てきました。「施しをする時には、偽善者たちが人からほめられようと会堂や街角でするように、自分の前でラッパを吹き鳴らしてはならない」と、イエスは言われました。

  偽善者というのは、偽りの善を行う人のことでしょう。本当の善でなく、贋(にせ)の善をなす人です。ギリシャ語では、ヒポクリテースと言いますが、これは舞台で仮面劇を演じる役者を指します。俳優は皆、偽善者だというのではありませんが、俳優は登場人物になりきって演じますが、本人はむろん偉大な登場人物とは違います。しかし演技によって、それと見せていわばごまかすのが俳優さんです。そして、演技が真に迫れば迫るほど、素晴らしい俳優という事になって人気が出ます。

  口では素晴らしいことを語っているが、それを日常生活で生きていないところに偽善があります。口では高尚なせりふを言う。だが普段の行いは違います。俳優さんが偽善者というのではありませんが、ギリシャ人は比喩的に考えたわけです。

  イエスは、今日の所にあるように、偽善は「施し」という立派な行為においても現われるし、5節以下の「祈り」という最も信仰的な行為においても現われる。更に16節以下にあるように、「断食」という謹厳な生活においても現われるとおっしゃっています。いや、むしろそのような、いわば高尚な生活の中で最も醜い姿が現れることがある。だから注意しなさい、とおっしゃっていると言っていいでしょうか。高尚なことを言ったり、人に教える立場の人だけではありませんが、そういう人々に現われやすいもので、私たち牧師は、くれぐれも気をつけなければなりません。これは特に強調しておきたいと思います。

  しかし、偽善的なところが全くない人というのはないのではないでしょうか。どこかに偽善が含まれます。自分は十分に生きていないが、語らなければならない場合だってありますし、偽善を完全になくすことほど難しいものはないでしょう。皆さんはどうでしょうか。

  反対に、自分の悪さを誇張したり、取り立てて言ったりする。自分の悪を暴露する人、偽悪家というのもあります。悪人ぶることによって、予め批判されることに予防線を張っておくわけでしょうか。それはまだかわいいですが、偽善者の方は自分が言ったことを生きていないが、生きていないことを告白もしない。いや、むしろ生きているかのような顔をするわけです。イソップ物語のカラスのように、白い絵の具を羽に塗って、自分は鳩だと主張するわけです。化けるわけです。

  それだけでなく、「見てもらおうとして、人の前で善行を」する。また、見てもらいたいために、「自分の前でラッパを吹き鳴」らす。化けるだけでなく、化かす。

  これらはどういう生き方でしょう。その目は人間を見ています。人に向かっています。イエスは善行を否定されません。善行には意味があります。だが、偽善者は善行を人からの報いと取引関係で見ている。益になるかどうか、得になるかどうかの善行です。

  そうした場合、見てくれる人があり評価してくれる人があれば、それで報いを得たことになるでしょう。だが、そのようなあり方は、それでおしまいでしょう。既に報いを受けてしまっているからです。イエスはそう言われます。

  善行にはもっと深い意味や報いがあるのに、浅い報いを受け取って、それで終わっている。生き方が浅いのです。深まりがないのです。ですからイエスは、生き方の深まりを、命の源にまでさかのぼって生きることを、今日の所で勧めておられると言っていいでしょう。

  私たちはうっかりすると、いつの間にか上っ面で生きている場合があるのではないでしょうか。ですから、自覚的に命の源にさかのぼる、それに根ざすような深い生き方を意識的にしてほしいという事でしょう。

  イエスは私たちを裁いておられるのではありません。イエスの言葉は厳しく聞こえますが、私たちを愛するゆえに人間として深まった生き方をしてほしいからです。本当の愛は私たちを高め、育てるものです。

  イエス様が6章の先の方で、「先ず神の国と神の義を求めなさい」とおっしゃったのは、この生き方の深まりと関係があります。また、6章の中ほどで、「地上に富を積んではならない。…富は、天に積みなさい。富のある所に心もある」とおっしゃったこととも関係があります。

           (つづく)

                             2009年6月28日

                                       板橋大山教会   上垣 勝


                                        
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  (今日の写真;巡礼の町ヴェズレーの民家。)